【仙臺まちなかシアター解説 出演者編②野々下孝】

この方との出会いは2009年,杜の都の演劇祭で私が演出をした「土神ときつね(宮沢賢治作)のときです。杜の都の演劇祭は確か2年目で、リーディング公演でした。「土神ときつね」は宮沢賢治作品の中では異色のもので、テーマが恋愛、という作品です。昨年YONEZAWA GYU OFFICEでは、構成劇として上演したので、ご存知の方も多いかと思います。

そのとき、荒っぽい土神、という役を渡部ギュウが演じることが決まっていて、相手役の知的で上品な「きつね」の役ができる役者さんを探していました。お、今プロフィールを見ていたら、野々下さんが活動拠点を東京から仙台に移されたのが、2009年だったのですね。  

私的には「若くてかっこよくて、ちょっと愁いを含んだ雰囲気の方がいいなあ」と漠然と考えていたときに、ギュウさんが「おもしろい役者がいるぞ」と紹介してくださったのでした。お会いしてみたら、すらっとしていてかっこよくて、話し方もちょっとシャイな感じでおだやかで、雰囲気ぴったり!と思ってオファーさせて頂いたのでした。

 はい。ここまでが、いい話です。

稽古が始まりました。…あれ?なんか思ってたんとちがう…。まず、すごく動く。そしてその動きが、なんかヘン。というか演出が予期せぬ動きばっかりする。読みも第一印象のイメージと全然違う!とにかく全体的に、面白すぎるのです。これでは「土神ときつね」は、ちょっとイっちゃってる男性二人につきまとわれて困っている女性の話になってしまう…(笑)、というのは極端ですが、とにかく、爆弾のような役者さんです。

ただ、非常にカンがよく、演出が言ったことを瞬時に理解して、芝居を柔軟に変えてくださるので、とにかく稽古が楽しかった。物語の内容についても、ああでもない、こうでもない、と一緒に夜遅くまでずいぶん話し合ってくださったのを覚えています。

 その後野々下さんは仙台でシアターラボという劇団を立ち上げられ、ご自分のやってみたいことをどんどん突き進んでらっしゃいました。昨年度まで渡部ギュウが代表をつとめていたSENDAI座☆プロジェクトの舞台にも何度もご出演され、震災後2011年夏のチャリティー公演では、再び演出と出演者で出会わせて頂きました。そのころはもう、私的に“かっこよくて愁いを含んだ感じの役者さん”というイメージはすっかり吹っ飛び、「野々下さんが動けばとにかくその場面は面白くなる」みたくなってました。野々下さんスミマセン。

今回、久しぶりにご一緒することとなったのですが、斎藤茂吉さんの随筆がすごく楽しいので、読んだ瞬間(これは野々下さんにやってもらおう。しかも一人芝居風にして、おまかせしてしまおう)と企んだ次第です。

お断りしておきますが、とにかく真面目で真摯な役者さんなのです。斎藤茂吉のことや、台本の内容をとてもよく勉強して理解しておられました。衣装等もすべてご自分で準備してくださり、買い物や打ち合わせがなかなかできない状況の中、大変助かりました。稽古のときはだらだら雑談なし、稽古場にいらしたら、すぐ着替えて「さあ、始めましょうか」という真面目さ。そんな真面目な方なのに……どうして芝居はああなってしまうのでしょうか。本当に素晴らしいです。笑いがとまらないのです。

撮影本番当日。私は撮影のクマガイ監督や、写真撮影の小田島さんの背中が震えてるのを何度も目撃しました。斎藤茂吉の随筆は、コミカルなエピソードの中に、時折はっとさせられるような表現を含んでおり、そのあたりの演じ方も素晴らしい。詳しくは…ぜひ本編をごらんください♪

5月13日(水)19:00から、YouTube配信です。

 大分県出身。仙台シアターラボ代表・俳優・演出家。大学卒業後、劇団山の手事情社に入団。東西の古典作品を世界各地で上演。山の手メソッドの確立と発展、現代演劇の様式化に取り組む。俳優養成にも力を入れており、講師としても精力的に活動。2009年に拠点を仙台に移し、2010年に仙台シアターラボを設立。シーンを、抽象的な関連性によって連鎖させ、ある印象を作りだすスタイルは、「演劇の暴走」と称される。常に「演劇とは何か?」を突きつけながら、美しさと暴力性を兼ね備えた作品によって、演劇の未来を切り開き続けている。2016年よりARCT代表。平成25年度宮城県芸術選奨新人賞受賞。演劇を抽象化する作業と身体能力には定評がある。