仙臺まちなかシアター#17「文豪たちの恋愛論」解説

9月27日(日)上演の「文豪たちの恋愛論その①」は、”近代文学に名を残した作家たちは、恋愛なるものをどのように考えていたのか”がテーマです。ぜひシリーズ化したいと考えています。
その①は、6人の作家が登場。絵永けい・芝原弘・橋浦あやの、3名の俳優がタッグを組み、時に楽しく、時に切ない朗読劇として上演します。

伊藤野枝と大杉栄

①「成長が生んだ私の恋愛破綻」伊藤野枝
朗読 絵永けい +芝原弘
雑誌『青鞜』で活躍した婦人解放運動家、無政府主義者、作家、翻訳家、編集者。不倫を堂々と行い、結婚制度を否定する論文を書き、戸籍上の夫である辻潤を捨てて大杉栄の妻、愛人と四角関係を演じた。現代的自我の精神を50年以上先取りして、人工妊娠中絶(堕胎)、売買春(廃娼)、貞操など、今日でも問題となっている課題を題材とし、多くの評論、小説や翻訳を発表した。本編は、最初の結婚生活の苦悩と破綻から得た教訓を堂々と論じており、伊藤野枝の精神性が伺える。

芥川龍之介

②「恋愛と夫婦愛とを混同して不可ぬ」
芥川龍之介 朗読:芝原弘
東大在学中に同人雑誌「新思潮」に発表した「鼻」を漱石が激賞し、文壇で活躍するようになる。王朝もの、近世初期のキリシタン文学、江戸時代の人物・事件、明治の文明開化期など、さまざまな時代の歴史的文献に題材をとり、スタイルや文体を使い分けたたくさんの短編小説を書いた。体力の衰えと「ぼんやりした不安」から自殺。その死は大正時代文学の終焉と重なっている。本編は、ホリデイ・ラブなど、芥川龍之介独特の恋愛論が展開されている。

岡本かの子

③「恋愛といふもの」岡本かの子 
 朗読:橋浦あやの+絵永けい・芝原弘
漫画家岡本一平と結婚し、芸術家岡本太郎を生んだ。小説家として実質的にデビューをしたのは晩年であったが、生前の精力的な執筆活動から、死後多くの遺作が発表された。耽美妖艶の作風を特徴とする。多くの男性から愛され、結婚後は夫一平と愛人と3人で同居するという「奇妙な夫婦生活」を送ったことで知られる。本編は、恋愛の理論で始まり、途中から“思いがけない恋愛エピソードの引用”という、面白い展開をみせている。

太宰治

④「チャンス」太宰治 朗読:芝原弘+絵永けい・橋浦あやの
津軽の大地主の六男として生まれる。共産主義運動から脱落して遺書のつもりで書いた第一創作集のタイトルは「晩年」(昭和11年)という。この時太宰は27歳だった。その後太平洋戦争に向う時期から戦争末期までの困難な間も、妥協を許さない創作活動を続けた数少ない作家の一人である。戦後「斜陽」(昭和22年)は大きな反響を呼び、若い読者をひきつけた。女性関係のエピソードや、センセーショナルな最期により、破天荒な人物と思われがちだが、本編を始め太宰治の随筆や手紙には、彼の純粋で少年のような一面が現れている。

林芙美子

⑤「恋愛の微醺」林芙美子 朗読:絵永けい・橋浦あやの
複雑な生い立ち、様々な職業を経験した後、『放浪記』がベストセラーとなり、人気作家となった。その後、『牡蠣』などの客観小説に転じ、戦中は大陸や南方に従軍して短編を書き継いだ。戦後、新聞小説で成功を収め、短編『晩菊』や長編『浮雲』『めし』(絶筆)などを旺盛に発表。貧しい現実を描写しながらも、夢や明るさを失わない独特の作風で人気を得たが、過剰な仕事量をこなしていたこともあり、心臓麻痺により急逝。本編で歌われる恋愛論は、現代のオトナの恋愛?に通じるものがある。

坂口安吾

⑥「恋愛論」坂口安吾 朗読:芝原弘+絵永けい・橋浦あやの
1946(昭和21)年、戦後の本質を鋭く把握洞察した「堕落論」、「白痴」の発表により、一躍人気作家として表舞台に躍り出る。戦後世相を反映した小説やエッセイ、探偵小説、歴史研究など、多彩な執筆活動を展開する一方、国税局と争ったり、競輪の不正事件を告発したりと、実生活でも世間の注目を浴び続けた。恋愛=孤独に通じるという、彼の作品の節々に現れる恋愛観は、本編でも表現されている。